鹿の王1(上橋菜穂子) あらすじと感想

鹿の王1 あらすじ

強大な東の帝国、東乎瑠(ツオル)がアカファ王国を飲み込まんとしたとき、ヴァンは身寄りのない男たちの集団「独角」のリーダーとして、飛鹿(ピユイカ)故郷を守るための死兵として戦い抜いた。

しかしついに戦いに敗れ、ヴァンは捕縛されて岩塩鉱で奴隷として囚われていた。

奴隷に落とされてふた月ほどたったある夜、岩塩鉱は黒い犬に襲われ、数日後には謎の病が蔓延してヴァン以外の奴隷、奴隷監督たちが全滅。ヴァンも高熱に襲われたが、何とか生還し同じく奇跡的に助かったとみられる子供を拾って脱走した。

人目を避けながら逃げる途中、ケガで動けなくなっているトマという若者を助けたことから、トマの一族に身を寄せることになる。

岩塩鉱の異変を聞きつけて調査にやってきた、オタワルの血を引く医師ホッサルは、岩塩鉱を襲ったのが黒狼熱(ミッッツァル)ではないかと疑いを持つ。黒狼熱は250年前にホッサルの出自である古オタワル王国を滅亡に追い込んだおそろしい病である。

ホッサルは、塩山鉱から唯一生きたまま脱走したヴァンの存在に、黒狼熱対策の可能性を感じて彼を追い始める。

侵略する国と支配される国、未知の病、対立する二つの医療・・・

ヴァンとホッサル、立場の違う二人の主人公。しばしば切り替わる二つの視点で、物語は進んでいく。

上橋菜穂子氏のファンタジーの、壮大な序章。

鹿の王1 感想

もはや、日本ファンタジーの大御所といっていいだろう上橋菜穂子氏の壮大な冒険ファンタジーです。

単行本としては上下巻で刊行され、文庫化にあたり1~4に分けられました。文庫版「鹿の王1」は単行本上巻の前半にあたり、つまりは1冊まるまる序章みたいなものです。

その昔非常に栄えていたの大国「オタワル王国」、オタワルにかわって栄えた「アカファ王国」、そして侵略者「東乎瑠(ツオル)帝国」

3つの国があり、それぞれが独立しているわけではありません。

オタワル王国の生き残りは今も生きて巨大な知の集積となっており、アカファと東乎瑠(ツオル) の混血は進んでいる。それがこの物語の背景です。

しかも主人公は2人、アカファ王国の辺境の民出身のヴァンと、オタワル王国の生き残りで天才医師のホッサル。二人を取り巻く脇役も多く、二人の視点で物語は切り替わりながら進みます。

上橋菜穂子氏の小説は多くが児童書であることもあり、文章は難しくはないのですが、「鹿の王」は話の展開としては結構複雑な物語であるといえます。

そのため単行本上巻の前半と言える文庫版「鹿の王1」である本書は、主人公とその周囲の人々の紹介、人物関係の説明、登場する3つの国とその力関係の説明にほとんど割かれていて、あまり物語が進展しないため、ちょっと退屈かもしれないな、と思いました。

ただ、この背景などを理解していないと、「鹿の王」という奥行きのある物語のこの後がほとんど理解できなくなるため、とりあえず本書は頑張って読んでほしい、と思います。

この文章を書いている2020年6月下旬は、リアルな世界での日本は、世界は、新型コロナウィルスという未知の病に翻弄され、懸命に戦っているさなかです。

鹿の王の世界では、黒狼熱という、古くからある、しかしほとんど解明されていないおそろしい病と医療の戦いが描かれており、非常に心に響くものがあります。

病と懸命に戦く医療従事者、病によって不穏さが増していく国同士の関係、普通の生活をただただ望む人々・・・まさに今の世界を反映するような物語です。

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