2.43 清陰高校男子バレー部(壁井ユカコ)あらすじと感想

2.43 清陰高校男子バレー部 あらすじ

黒羽祐仁(くろばゆに)は、中学二年生、8年ぶりに福井に帰ってきた幼なじみ、チカとの再会を楽しみにしていたが、久々にあったチカこと灰島公誓(はいじまきみちか)はひどく不機嫌そうで無愛想で、幼き日の面影はほとんどなかった。

東京のバレー強豪中学に所属していた灰島は、黒羽も所属しているバレー部に当然の如く所属したが、2人の通う紋代中の男子バレー部は形ばかりの弱小部。

まともな練習もせずほとんど活動していなかった男子バレー部で、灰島は1人黙々と練習を始める。

あまりの灰島の変わり様と冷淡な態度を腹立たしく思っていた黒羽だが、どうしても灰島が気になり、そのうち共に練習するようになっていく。

バレーボールにしか興味のない極度の「バレーバカ」の灰島の加入により、散り散りだった他の部員たちも部活に戻ってきて、にわかに部活動らしくなっていく。

そして中3の夏、中学最後の公式戦に出場し、男子バレー部史上初の快進撃で。大会を勝ち上がっていくが・・・

バレーボールが好きで、バレーボールにしか興味が持てない上に人付き合いが極度に下手な灰島、恵まれた身体能力を備えながら、へらへらと逃げ癖のある黒羽を中心に、チームメイトたちのあれこれも群像劇的に差し挟まっていく、100パーセントバレー部小説

2.43 清陰高校男子バレー部 感想

天才がいる。なぜ、こんなところに唐突に存在しているんだというレベルの天才が。

もちろん、天才はただただ資質に恵まれているだけではなくて、目を見張るような努力を続けている。

それが天才を、さらなる高みへと押し上げてしまう。

だから天才はとても孤独だ。

飛び抜けてしまった彼の視界は何にも遮られず非常にクリアだが、誰かと共有することはとても難しい。

天才にも色々なタイプがいて、明るいのもいれば暗いのもいれば、要領の良いのもいれば壊滅的に無愛想なのもいる。

本作の主人公灰島はまごうことなき天才セッターだが、全てにおいて恵まれているわけでは決してない。

幼少期に母親を亡くして寡黙な父親との二人暮らし。これが、彼の性格形成に影響しなかったわけはない。

拝島はバレーボール以外のものは何もいらないと思っているが、もしかしたら他に何も見つけられなかっただけではないだろうか?

しかも灰島は天才だった。小さい頃にはすでに自覚もしていた。それ故に簡単に孤高へと上り詰めてしまった。

物語のスタート時、そんな孤高の天才は中二。まだ、若干14歳なのだと、おそらく本人の自覚はないだろう。

中二なんてまだほんの子供である。

壊れやすく混乱しやすい柔らかな存在なのだと、本人たちだけが気付いていないという残酷な年頃だからこそ、無自覚に人を傷つけ、自らも無自覚に傷つく。

本作は、自分では本当には気づかないままに震えるほど傷ついている灰島が、幼なじみの黒羽に出会う(再開する)ところから始まる。

「2.43」はシリーズ小説である。第1作である「清陰高校男子バレー部」は、文庫本では2巻に分かれている。

灰島と黒羽の再会の中学時代から、2人が清陰高校に入り、紆余曲折を経て清陰高校男子バレー部員として活動を始め・・・たと思ったらまたトラブルが起き、それでも全国を目指し始める夏までが書かれている。

物語の中心は黒羽祐仁と灰島公誓の「ユニチカ」。

ユニチカを中心に、合間合間に、周囲を固める魅力的なキャラクター(ほとんどペアで描かれる)の話が挟まりながら進行していく。

この「2.43」というシリーズは、小説ではありながら、少女漫画的に展開していく物語だなぁと思う。

主人公の2人。2年の棺野秋人と末森茨は甘酸っぱいパートを担い、3年の凸凹コンビ小田伸一郎と青木操の物語も非常に気になる。

物語はまだまだ続く。青春、高校時代という制限時間はまだ残っている。春高バレーという、高校バレーの晴れ舞台に向けてさぁいまから走り出す、というところで本作は終わる。

実は本作は、華々しいプロローグだったんだなぁと思いながら、セカンドシーズンの「代表決定戦編」に進みます。

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