愚者のエンドロール(古典部シリーズ2)あらすじ
超省エネ主義をモットーに生きる高校1年生折木奉太郎。巻き込まれるようにして解決することになった『氷菓』事件の後も、もちろん「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」を貫く所存だったが、どうやらそううまくはいかないらしい。
好奇心のかたまり千反田えるによって持ち込まれたのは、文化祭のクラス展示に出される予定の未完成のビデオ映画。
題材を「ミステリー」とだけ決め、廃屋で撮影された映像のなかで事件は起きたが、誰が犯人なのか、なぜ、どうやって、事件は起きたのかは明かされないまま映像は突然途切れている。
脚本担当の生徒が結末を台本に起こさないまま、神経性の胃炎で倒れてしまったため、映画を完成できずにとん挫しているのだという。
神山高校の『女帝』2年F組の入須冬美より、奉太郎をはじめとした古典部の面々は、その映画の結末を解き明かしてほしいと依頼されるが・・・
「古典部シリーズ」第2作、古典部たちの夏休みの物語。
愚者のエンドロール(古典部シリーズ2)感想
私、気になります!といえば千反田える。愚者のエンドロールは古典部シリーズの第2作。
季節は第1作氷菓より少し進んで夏休みの終盤。第1作と同様、語りは折木奉太郎。
過去の謎を解いた氷菓に対して、本作は現在進行形の出来事を、やはりえるが持ち込む形で古典部が巻き込まれます。
痛々しく切ない過去を紐解く物語の「氷菓」比べると、いろんな意味で「ミステリー」に強く傾いた作品です。しかも劇中劇。そして、主人公たち、とくに奉太郎の「今」の心情に切り込んでいった作品だといえます。
奉太郎が掲げるモットー「省エネ主義」。
「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」
を実践する生活を「灰色の学生生活」とし、対していわゆる高校生らしい華々しさを秘めた日々を「薔薇色の日々」としながら、あえて「灰色」を自ら選んでいるはずの奉太郎が、灰色と薔薇色の間を揺れ動いてしまう物語。
この辺りの心理描写は繊細で、鮮やかで必読です。
また、本書は主人公奉太郎が謎を解き明かすミステリー、というのはもちろんなんですが、全編通して、新旧のミステリーの知識やオマージュが随所に織り込まれているのが新鮮です。
シャーロックホームズ、アガサクリスティ、など、いわゆる古典ミステリーについてちらほらと言及されているので、その辺りの知識があるとなおのこと面白いのではと思います(残念なことに私にはその素養がないため、さらっと流し読みしてしまいました)
読者は、作中に出てくるビデオ映画の謎を古典部のメンバーとともに解きながら、女帝・入須よりもたらされたそもそもの謎を追うという、多層構造になっています。
軽快なひとり語りの文章、会話文の多い本書はさらさらと読みやすく、それゆえ流し読みしてしまいがちですが、謎を解くためのすべての要素は読者に提示されていて、そういう意味でも本書はミステリー小説です。
青春学園小説のど真ん中を行きながらも、まごうことなきミステリー。
主人公をはじめとした古典部の面々、ゲストキャラである女帝・入須冬美。いずれもキャラが立っており、学園小説としても読みやすいので、これまであまりミステリーは読んでこなかった、ミステリーや謎解きは面倒だからあまり好きではない、という方にもお勧めできます。
読みやすさゆえに、さらさらと流れるように読み進んでしまった結果、読み終わった後に何点か、特に登場人物の心情面に関しては釈然としないまま解説もされないまま終わってしまったという感じが残るかもしれません。
全てを懇切丁寧に解説、解読してくれていると期待するとちょっと当てが外れた感があるように思います。
物語の大筋を追うだけでも十分に楽しめますが、主人公・奉太郎や、ヒロイン・える、女帝・入須の、文脈にちりばめられた内心を丁寧に追いながら読むと、また別の楽しみ方ができます。
「氷菓」の映画化についてはこちらです