悟浄出立 (万城目学)あらすじと感想

悟浄出立 あらすじ

中国の古典の中で詳しくは語られなかった、しかし確かに存在した「脇役」を見出し、彼らの想いを言葉にした作品。

  • 西遊記の沙悟浄
  • 三国志(演義)の趙雲
  • 史記・項羽本紀の虞美人
  • 史記・刺客列伝をもとに書かれた秦の下級官吏の京科
  • 史記を書いた司馬遷の娘・栄。

中国古典の世界観の中で、主人公にはなり得なかった脇役たちに光を当て、脇役たちが鮮やかにきらめいた一瞬を切り取った5編の短編集。

出典となった中国古典について、巻末に「著者解題」として解説や人物紹介が載せられている。

悟浄出立 感想:万城目ワールドを封印したしっとりとした歴史・時代小説集

万城目学氏といえば「鴨川ホルモー」でデビュー、その後、「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」と続けざまにヒットを飛ばした人気作家です。

作風としては、奇想天外、荒唐無稽な出来事を日常に持ち込む形のファンタジー(ローファンタージーといえると思います)が得意で、万城目ワールドなどとも呼ばれています。

京都や大阪など、西日本を舞台にすることが多い作者ですが、本作のモチーフは中国古典。

タイトルの「悟浄出立」だけではどんな話かさっぱりわかりませんでしたが、文庫本の帯のアオリ文句が「おまえを主人公にしてやろうか!」だったので、これはいつもの万城目ワールド全開かな、と思って読み始めたら…予想は裏切られました。

このあたりは人によって感想は異なると思いますが、私の場合は、いい意味で裏切られたな、という感じです。

万城目ワールドが読みたくて手に取った方にとっては、微妙だなぁという感想かなと思います。

いつもの万城目ワールドとは一線を画す作品なので・・・

本作は、歴史小説、時代小説に分類されると思いますが、史実と言うわけではありません

史記などにある史実の隙間にあって、確かに存在したであろう誰か、でも記録には残されなかった時代の脇役たちにスポットを当てた創作小説です。

そういう意味では、作者のいつもの想像力が存分に発揮されておりますが、鴨川ホルモーや偉大なるしゅららぼんなどの作品とは異なり、非常にしっとりとした、味わい深い短編集です。

私は中国古典の知識はまるでないのですが、巻末に、著者による出典の解説がついているため、最低限の知識は得られます。出典を知ることで、より理解が深まります。

ついでに、これを期に中国古典にもっと触れてみたくなりました。

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