いなくなれ、群青 あらすじ
主人公の高校生、七草は、数日の記憶を失って、気付いたら見知らぬ場所に倒れていた。
ここは魔女の支配する階段島。捨てられた人の集まる場所です。
元の場所にもどるには、失くしたものを取り戻さなければなりません。
そう言われて始まった階段島の生活は特に不自由もなく、なんとなく平穏に過ぎていた。
彼女に会うまでは。
2年前、転校で別れてそれきりだった女の子、真辺由宇。絶対にこんな場所に来るはずがなかったはずな彼女と階段島で再会して、七草の階段島での生活は一変する。
魔女とは誰なのか。失くしたものとはなんなのか。どうしたら。真辺由宇を元の世界に戻せるのか。
階段島シリーズ、第1弾。
いなくなれ、群青 感想:若い読者の心をつかんだ青春ミステリ
作者は河野裕氏、階段島シリーズは河野氏の代表作ですが、そのほかに有名な作品では、サクラダリセットシリーズがあります。
本作、「いなくなれ、群青」は、階段島シリーズの第1作。階段島シリーズは、第6作をもって完結しています。
本書を見て、まず目に入るのは、その印象的なタイトル、そしてどこか遠くを見るような少女のイラスト。
さらに私を気を引いたのは、文庫本の帯と、裏表紙に書かれた煽り文句。
心を穿つ青春ミステリ
穿つ。穿つってあんまり日常で使いませんよね。心を穿つって、どんだけ痛いんだって感じです。
この煽り文句によって、この本の内容をどう想像するか・・・はもちろん人によると思いますがとりあえずいえることは、本作が穿つのはおそらく「若い読者の心」ということ。
「いなくなれ、群青」は大学読書人大賞で第1位に選ばれているということですし、確かに、若い読者の心を強くとらえたのだろうと思います。私も高校生や大学生の頃であればきっと、これは傑作だ、のめりこんだのではないかな、とは思うのです。
刊行が新潮文庫nexであることですし、この表紙絵でもあるので、そうそう勘違いする方もいないとは思いますが、若い読者向けの本なのだ、と認識していないとちょっと・・・当てが外れた感はあるかもしれません。
これは作品が良い悪いということではなく、読者側、受け取り方の問題です。悲しいかな、10代、学生時代からすでに遠く離れてしまった私は、この作品が最も強く揺さぶる部分が、すでに薄れてしまったということでしょう。
会話文多めの文体は丁寧で、それでいて心地よいリズムで読みやすく、この作品の独特な空気感によくマッチしています。ラノベっぽいかな・・・という感は否めませんが、新潮文庫nexはラノベではないとのことです。
さて、内容についてです。青春ミステリ、ということなので謎解きの要素は確かにあるのですが、何か事件が起きてそれを解決する、というタイプのミステリではありません。
世界の大きな謎(失くしたものとは何か、どうして階段島に来たのか、魔女とは何なのか、など)をゆっくりと解き明かしていくタイプのミステリです。
主人公は高校生の青春ものですが、ワクワク・ドキドキ・ハラハラ、といった躍動的な物語ではなく、疾走感もありません。静かに、ゆっくりと、主人公七草の1人称で、非常に内省的に物語は進んでいきます。
シリーズ第1作で物語はどこまで進むのか・・・気になると思いますがはっきり言いましょう!ほとんど何も解決しません!
プロローグの最後の1文の
この物語はどうしようもなく、出会った時から始まる
「いなくなれ、群青」p.16
この言葉の通り、七草と真辺由宇とであったところから始まる本書は、シリーズのまるまるプロローグみたいなものです。
解き明かされたのは、「失くしたものとは何か」と「どうしてみんなはここにいるのか」のみ。魔女とは何なのか、という謎については、第2作「その白さえ嘘だとしても」に続いていきます。
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