夜行(森見登美彦) あらすじと感想

夜行 あらすじ

同じ英会話スクールに通う仲間6人、鞍馬の火祭を見物に行った10年前のあの夜、仲間内のひとりである長谷川さんは忽然と姿を消した。

何の痕跡も、手掛かりもなくいつの間にかひっそりと。

10年ぶりに、もう一度みんなで鞍馬の火祭に行こうという話になったのは、誰一人、長谷川さんのことを忘れられなかったから。

やがて雨が降り始め、長谷川さんを除く5人がそろって鍋を食べ始めた頃には、外はますます強くなっていく。そんな中、それぞれが過去に出会った不思議な旅の話を語り始める。

尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡・・・不思議なことに、岸田道生という銅版画家の連作絵画「夜行」という作品を皆が目にしていて、それぞれの旅の不思議な体験の根底にはその「夜行」という作品がいつも絡んでいるようで・・・

長谷川さんは今、どこにいるのだろう・・・

5人の語り部による、5編の連作怪談。

夜行 感想

まず目につくのは帯の「直木賞&本屋大賞ダブルノミネート」という派手な売り文句。そして、文庫本の裏表紙に書かれたあらすじには「怪談×青春×ファンタジー」「かつてない物語」の文字。

そしてアニメチックな物憂げな女の子のイラストの描かれた表紙。

とりあえず、期待しますよね、こんなこと書かれたら。森見登美彦ファンなら否応なく、煽られますよね。

・・・とりあえず言っておきたいのは、これは、青春小説では、ないです。

作品のいい悪い、という話ではなくてですね・・・この表紙で「青春・ファンタジー」とか書いたら、読者はもっと柔らかいファンタジックで少々可愛らしいものを想像すると思うんですよ。しかも作者が森見登美彦氏。あり得そうじゃないですか。

そういうつもりでこの本を手に取る読者が多い・・・なんてことは分かり切っているはずなのになんでこの表紙とこの煽り文句にしたかなぁ・・・てのは、ちょっと言いたいんですよね。

正直、だまされた感を抱えた人って多いと思います。

はっきり言っておきます。この小説は「夜は短し歩けよ乙女」を代表とする森見登美彦氏の作風ではない、です。

古風でけったい言い回しで、ちょっと不思議な世界を主人公が愛らしくあほらしく闊歩する作品が目立つのでそういうのばっかかと思いきや、実は森見登美彦氏は不気味な、薄暗いダークファンタジーや怪談を書くこともあって・・・例えば「きつねのはなし」とかですね。

本書「夜行」はその系統です。表紙に騙されたらいけない。静謐で不気味な小説なんだと初めから思って読めば、裏切られた感はないはず。

さて長い前置きでしたがようやく内容について。

んー・・・評価が分かれるだろうな、と思います。

読み始めて、1章を読み終わるころにはがっつり怪談であることは明白になるんですが、若干のミステリー要素がずっと背後にあります。そのミステリー要素がこの作品の厚みを増して、読者をひきつける大きな要因なんですが、最後まで読んでもほとんど全く解明されないし、伏線も回収されないまま終わってしまいます。

もやもや感がかなり残る。この「あとは読者の解釈に任せます」というのが苦手な人にとってはこの作品は面白くないだろうな、と。

しかも、怪談ですから、幸福な方向での余韻じゃないので、あんまり読後感がよくない。バットエンドというわけでもないので、最後すごく後味悪い、ということではないんですが、え・・・結局何だったの?という感想を抱いてしまうかもしれません。

ストーリーの背後にあるミステリー要素によって、最後までぐいぐい読まされてはしまうんですが、読み終わって、面白かったー!とはなりにくい作品なのかな、と思います。

読み終わってもなお漂い続けるちょっと薄暗い余韻を楽しむ・・・そんな作品なんだ、ということは、あらかじめ分かったうえで読んだ方がいいのかな、と思いました。

余談ですが、「夜行」と直木賞を争って見事受賞した作品は恩田陸氏の「蜜蜂と遠雷」です。これは、かなりの名作です。なので、納得の結果かな、と。

それでは。

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