七月に流れる花(恩田陸)あらすじと感想

七月に流れる花 あらすじ

六月という半端な時期に夏流(かなし)という街に転校してきた主人公のミチル。

友達もうまくできないまま、1人で帰っていた終業式の帰り道、和菓子屋の奥の鏡の中に見つけた全身緑色の「みどりおとこ」を見つけてしまう・・・必死で逃げるミチルのカバンに投げ込まれたのは、夏の城と呼ばれる「夏流城(かなしろ)」での林間学校への招待状。

他の五人の少女とともに、林間学校という名の城での共同生活の意味は・・・?

恩田陸の綴る、夏の少女たちの物語。

七月に流れる花 感想:恩田陸氏の書く、夏と少女の物語を是非堪能してほしい

恩田陸氏は非常に多作な作家・・・というイメージがあります。

代表作は何になるのでしょう、たくさんありすぎて迷いますが、やはりデビュー作の「六番目の小夜子」、映画化された「夜のピクニック」、近年の作品ですと、2019年10月4日ロードショーの映画の原作「蜜蜂と遠雷」か・・・

本当に数多くの作品があるため、選びきれない、というのが正直なところです。

恩田陸氏は作風もかなり幅広く、青春小説、SF、ダークファンタジー、冒険もの、音楽小説・・・なんでもありで本当に多岐にわたる、という印書です。

私は「六番目の小夜子」で恩田陸氏の作品に入ったため、やはり青春ミステリーや青春ものの印象が強く、好きかな、と思っています。

さて本作「七月に流れる花」はどのような作品かというと、主人公が中学生ということで青春もの・・・と思って読み始めたら、なんとなく雰囲気が違う。

文庫本の帯には「ダークファンタジー」とあったので、非常に怖いものを想像しながら読んでいましたが、ホラーというのともちょっと違う気がする・・・なんとも不思議な小説でした。

本自体は薄く、文字もさほど詰まっていない小説で、読み始めたら一晩もかからずに読めてしまう作品です。

そのような軽め、短めの作品であっても、行間から立ち上るは真夏の気配。

夏の真昼の、明るくて妙に静かで何かを隠しているような濃厚な空気感。

恩田陸氏は夏に思い入れがあるのだろうか…夏と少年、夏と少女を描いた作品が比較的多いように感じます。

そして上手い。恩田陸氏は夏を書くのが非常に上手いと思うのです。

夏の情景、夏の倦怠、理由もないままに掻き立てられる焦燥感。

やはり恩田陸氏はすごい。本当に、すごい。この簡潔な文章からどうしてこんな情景描写ができるのだろう、と改めて思いました。

本作は、ネタバレしたら本当に台無しなので、内容についてはあまり触れません。え、そんな話なの、これ?という多少の驚きとともに終わる、そんな物語です。

ただストーリー云々よりも、この文章、このリズムはまさに恩田陸って感じなので、恩田陸氏の作品を読んだことがない、という方には本書は結構おすすめです。

短いし、難解じゃないし、それでいて醸し出される気配が非常に切ない。

ノスタルジアの魔術師」などと呼ばれる所以が垣間見られるのではなかろうか、と思います。

ちなみに、多くの恩田陸作品にも言えることですが、ミステリーとしてとらえると、「あの謎がまだ未解決なんだけど。伏線回収しきれていないんだけど」みたいな気分になってしまうので、おすすめはしません。

謎解き、よりもノスタルジー。解答よりも世界観重視です。

この「七月に流れる花」には対になる「八月は冷たい城」という作品があります。

この2作は2つで1つではありますが、上下巻ではありません。でも間違っても、「八月は冷たい城」から手にとってはダメです。完全にネタバレするので台無しです

まず「七月に流れる花」を、そして「八月は冷たい城」へと進んでください。

ここ数年、私は実は恩田陸作品とは少々距離を取っていたのですが、やっぱり読むと面白いんだよね、恩田陸。

長年第一線にいる作家はさすがです。すごい実力を感じるんだよね・・・こんなに短いのに。

なんかそんな気分にさせられました。

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