革命前夜(須賀しのぶ) あらすじと感想

日本が昭和から平成へと移り変わるちょうどそのころ、バブル期の日本を離れ、遠く東ドイツに音楽留学したピアニスト眞山柊史。

敬愛するバッハが今なお息づく国で、自らの音を、音楽を突き詰めたいとやってきたものの、世界中から集まっている個性あふれる才能の中で沈みそうになりながらあがく日々。

物資も乏しく、言論統制され、あまりにも日本と違う東ドイツの日々に翻弄されるさなか、眞山は立ち寄った教会で、運命的に出会ってしまう。オルガンの銀の音と、金色の彼女。

才気あふれる彼女は、しかし、国家保安省(シュタージ)の監視対象だった・・・

東西ドイツ統一直前の東ドイツを舞台にした、若き音楽青年の成長と葛藤を描く青春小説でありながら、重厚な歴史エンタテイメントです。

革命前夜 感想

私は旧東ドイツ、DDRという国をよく知らない。

ドイツが昔ふたつに分かれていたこと、ベルリンの壁の存在と崩壊、東西ドイツの統一。

知識として、言葉としてはなんとなく知っているけれど、実情は何も知らない

ベルリンの壁が崩れた時、私はすでに生まれていたけれど日本から出たこともないほんの子供で、ヨーロッパはとても遠く、ドイツがどこにある国かもよく分かっていなかった。

両親がベルリンの壁を中心とした革命について、一般的な程度の関心でニュースを追っていたと思うが、私はよく分からなかったし気にもならなかった。そしてそのまま、今に至り、この本を読んだことで初めて、DDRというかつてあった国の一端に触れた、と思うのです。

この小説はフィクションで、まさかこの小説を読んだからといって当時の東ドイツについて理解できたなどというつもりはないですが、まったく知識も興味もなかった、当時を生きてもいなかった個人の中にも確実に痕跡を残した、という意味ですごく貴重だと思いました。

この小説は、ドイツ革命という大きな歴史の流れの中の、ごく小さな個人の物語である。

時代は革命直前、もうすぐにベルリンの壁は崩壊し、東西ドイツは奇跡的な統一を成し遂げる。それを、後世を生きる私たちは歴史的事実として知っていますが、物語の登場人物たちは知りません。

東ドイツ、北朝鮮、ベトナム、日本・・・世界の各地から集まった天才たちは音楽の才能と情熱は当然溢れていますが、その出自からくるしがらみからは逃れるすべがない。バブル期の日本から来た眞山柊史は特別として、

東ドイツ、北朝鮮、ベトナムといった社会主義国家の音楽の若き天才たちは、や否が応でも、その肩に背中に国家の期待と威信と思惑などが重くのしかかっている・・・

彼らが何を考え、何を信じ、何を強制され、何を選んで、選ばされて行動するか・・・どれが正しくて、何が悪なのか、それは一概には言えない。

ただ音楽だけを、純粋に突き詰められたならどれほど幸せなのか・・・そんなことを、思いました。

ストーリーとしては、静かな音楽小説かと思いきや恋愛要素あり、後半にはミステリー要素もありと盛りだくさんで、かなりの厚みがありますが飽きることなく最後まで読めます。

東西ドイツの格差、冷戦、監視社会、密告、と、この物語を構成する要素は重く深刻なものが多いながら、文章は読みやすく、淡々としながらも静かな情熱が伝わってきて、否が応でも引き込まれます。

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