映画「蜜蜂と遠雷」を見に行ってきました。
原作は恩田陸、文庫本にして分厚い上下巻という大作です。
私はこの「蜜蜂と遠雷」原作小説がすごく好きで、本当に素晴らしい作品のため、今回の映画化をとても心待ちにしていました。
なので、この映画「蜜蜂と遠雷」の感想・レビューは、原作をすでに読んだ、原作ファンによるものです。
やけに強調しているのは、この映画は、原作を読んでいるかいないか、原作への思い入れの強さによってかなり評価が分かれると思われるからです。
そんなわけで、原作読者による正直な感想と、意外なほどに好意的な世間の反応について、いくつか細かく分けて考えてみます。
重要なネタバレはしないよう気をつけますが、ややネタバレありなのでご注意ください!
原作ファンからみた映画「蜜蜂と遠雷」の感想・レビュー
原作が好きだから見に行った原作ファンとしての感想を正直に書いてしまうと、
うーん…いまいち!
という感じです。
ざっくりと上から目線で言ってしまえば、「邦画ってちょっと失敗するとこうなるよね」みたいな出来。
いくつか気になった点についてレビューします。前半は良かったところ、後半はちょっといまいちだと思ったところについてです。
役者は熱演
「蜜蜂と遠雷」は、近い将来世界で活躍するのだろう、と思われるピアニストたちが挑むコンテストの話です。
ちょっとしたピアノの発表会レベルの話ではないんですね。世界に羽ばたかんとしているピアニストたちなので、それはもう、超絶技巧。
当然ながら、演奏は吹き替えになります。
演奏は吹き替えなのですが、全編を通して演奏シーンは沢山出てくるため、役者さんたちは、その超絶技巧を弾きこなす演技が求められるわけなんですが、この点映画「蜜蜂と遠雷」の出演者の方々は素晴らしかったです。
特に栄伝亜夜を演じた松岡茉優さんは迫真の演技でした。
女性のステージ衣装は肩や背中が出ているものも多いため、演奏中の腕の動き、肩の動きがはっきりと見えてしまうのです。全きごまかしがきかない。本当に天才ピアニストのが熱演しているように見えました。
演奏は素晴らしい
私は残念ながらクラシックに疎くて、作品中に出てくる楽曲もほとんどわからないのですが、そんな素人が聞いていても演奏がすごいのは分かりました。
ピアノの演奏はすべて吹き替えだったと思われますが、主要人物のそれぞれの演奏部分は、現実に実力のあるピアニストが担当しています。
- 栄伝亜夜:河村尚子
- 高島明石:福間洸太朗
- マサル・カルロス・レヴィ・アナトール:金子三勇士
- 風間塵:藤田真央
映画館に鳴り響く音楽、この作品はやはり、映画館で見るべき映画だろうと思います。
妙に暗い、重い
とりあえず妙に暗い、そして重い。全体を通してそういう印象を受けます。
もちろん、要所要所ではピアノの演奏シーンがあるわけで、ひたすら静かな映画ではないはずなのに、やはり雰囲気が重い、そして暗い。
あの大作を映画化するにあたり、エピソードや登場人物をある程度削るのは致し方ないと思いますが、削られた結果、ほとんど 栄伝亜夜の物語になったため、やはりトラウマを抱えているのでどうしても重苦しい。
登場人物の背景が薄い
「蜜蜂と遠雷」は、あるピアノコンクールの一部始終を見守るような物語です。
たくさんのコンテクスト(コンテスト出場者)は、予選が進むにつれだんだんと絞られていきますが、その中で主要な登場人物となるのは4人。
栄伝亜夜、 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール 、風間塵、高島明石
小説ではこの4人の背景がきっちりと書き込まれていて知らず知らず感情移入していくのですが、映画版ではその辺りはかなり端折られています。
背景がよくわからないまま、話の筋は原作を追っていくので、上滑り感がすごい。
いろんなエピソードがやたら唐突
人物の背景が端折られているため、様々なエピソードのスタートがやたら唐突に感じます。
栄伝亜夜がコンテストに出ようと思った成り行きも、マサルとの再会の場面も、唐突に訪れるので違和感を感じます。
これ、原作未読の人はついていけるのだろうか・・・とずっと考えながら見ていました。
そもそもスタートに出てくる馬の映像が、何の意味があるかわかる人っているのだろうか?
栄伝亜夜には、雨の日の水音が、馬が軽快に走る足音に聞こえる、全て音は素晴らしい音楽に聞こえる、そういう才能の持ち主なのだと、圧倒的な天賦の才で、音楽の神様に愛されている子なのだと、あの映像からわかるのか?はかなり疑問です。
ほとんど栄伝亜夜の物語
あの長編を2時間程度の映画に押し込めるためには主題を絞る必要があったのだろう、ということは理解はできます。できますが、ここまで栄伝亜夜の物語にしてしまっては・・・という惜しい気持ち。
そもそも、「蜜蜂と遠雷」は群像劇で、主役はそれぞれの登場人物というより「コンテストそのもの」のように思えていたため、栄伝亜夜を中心に、ほかを脇役のように演出したのが残念でならないし、キーパーソンの風間塵の存在感が薄すぎる、というか普通過ぎる。
疾走感、爽快感が感じられない
「蜜蜂と遠雷」の原作って、すごく長いし、淡々とコンテストが進むだけの物語なはずなのに妙に急き立てられるような、ぐいぐいと引きずられて最後まで読まされてしまうような、そんな疾走感があります。
そして一気に読み切った後、それこそコンサートを集中して最後まで聞き入ったのちに解放されたような爽快感がある、と感じたのですが。
ちょっと映画「蜜蜂と遠雷」のほうは、のっぺりとした雰囲気というか、退屈な感じが否めなかったように思います。
ブルゾンちえみの演技がウザい
これは個人の好みの問題なような気がしますが・・・
ブルゾンちえみの演技がわざとらしすぎて微妙。
(個人的感想です)
「蜜蜂と遠雷」の原作未読のほうがむしろ楽しめるのかもしれない
以上、かなり辛口レビューになってしまったのですが、映画サイトの口コミを見ていると、みんながみんなそう思っているわけではないのです。
むしろ高評価が多くて驚くくらい。ただもちろん、酷評しているコメントもそれなりにあります。
なぜここまで評価が割れているのか考えてみたんですが・・・おそらく原作未読のほうが楽しめるのだろうと思います。
原作を読んでいるとどうしても比べてしまうし、設定やストーリーの違いが目についてしまいますが、原作を読んでさえいなければ、私が感じた「突拍子もない」とか「違和感がある」といった感想を抱きにくいのでは、と思います。
もし、原作をまだ読んでいなくて、読んでから見ようかなと思っている方がいましたら、先に映画を見るのをおすすめします。
クラシックファンは純粋に楽しめるかもしれない
「蜜蜂と遠雷」は、クラシックやピアノの演奏シーンが多いので、クラシックが好きで見に来た方や、クラシックや音楽の知識や経験がある方は純粋に楽しめるのでは、とも思います。
私は残念ながら、クラシックも音楽もほとんどわからないため、演奏がすごいなー、程度しかわかりません。
ですが、おそらくクラシックを聴きなれた方などですと、演奏者による違いや、楽曲の解釈などについても理解できて面白いのではないかな、と思います。
とにかく、「蜜蜂と遠雷」の原作を読んでほしいです!!
「蜜蜂と遠雷」の原作ファンとして、読者として、結構好き勝手に書いてしまいましたが、すべては個人の感想です。人によって評価が分かれるのは当然なので、いち意見としてとらえていただければいいのですが。
ただ、原作は本当におすすめです。私はクラシックや音楽の知識がまるでない状態で読みましたが、それでもものすごく面白かったです。知識があればさらに面白いんだろうなと、悔しくなったくらいです。
作者は恩田陸。様々な作風でたくさんの作品を出している作家の、真骨頂を見た気がしました。間違いなく、代表作の一つです。
それでは。